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とうに下校時間は過ぎていた。しかし、窓の外の風景を見る限り、生徒たちに帰るべき家があるようには到底思えなかった。生徒たちは、それぞれ自分たちの教室で、事態が進展するのをじっと待つしかなかった。
普段なら「じっとしてろ」と言われると、それに逆らって教室を抜け出すお調子者が一人や二人は現れるが、少なくとも俊彦のいる三年七組の三十人は、誰ひとり教室を出ず、じっと指示を待っていた。
「心配させてごめん」
外が薄暗くなった頃、美沙が教室に戻ってきた。
「大丈夫か」
伸二がほっとした様子で話しかけた。
「軽い脳震盪を起こしたんだって。少し休んだから大丈夫」
美沙は軽く笑った。だが、すぐに表情は暗くなった。
「どうしちゃったの、ここはどこ?」
伸二は黙った。俊彦が助け舟を出した。
「美沙、それに答えられる奴はここにはいないよ」
「ところで、道具は大丈夫かな、アーチェリー」
しばらくたって美沙が突然口を開いた。美沙はアーチェリー部のマネジャーをしていた。夏のインターハイ後に引退し、同じく引退した主将の伸二と付き合い始めたのだ。伸二はこう見えても県大会の上位常連で、三年生の今年はインターハイにも出場した。大学にもアーチェリーの推薦で進むことになっている。
「どうせやることないんだし、道具だけでも手入れしておくか」
伸二は立ち上がり、「部室の様子を見てくる」と言って、美沙と一緒に教室を出ていった。
生徒は教室でじっとしているようにというのが職員室からの指示だったが、俊彦は「このくらいの違反は問題ない」と思った。
だが、この小さなルール違反が全員の運命を左右することになるとは、この時の俊彦に想像できるはずもなかった。
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