4.サバイバル

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 しばらくして、偵察に出た先生たちがポツポツと学校に戻ってきたことが、噂で伝わってきた。たとえ教室でじっとしても、そういった動きは逐一耳に入る。学校内の情報網は密にして迅速だ。  最初に戻ったのは、校舎の東側と北側に向かった二つのグループだった。校舎は山の中腹に立っているような恰好だ。東側と北側は校舎の背後で、その山の斜面に当たる。獣道のような細い道沿いに小一時間ほど歩き回ったが、民家の気配は全くなく、虚しく引き上げてきたのだった。次に戻ったのは、海の方角である西側に向かった二班だった。 「家はあったけど、粗末な掘っ立て小屋だったらしいぞ」  職員室での会話を盗み聞きした隣のクラスの男子が吹聴していた。 「人の気配はなかったみたい」 「家はたくさんあったのか」 「いや。ポツポツらしい。集落ではなかったみたいだぞ」  偵察の結果は、教室内に再び当惑と倦怠の空気をもたらした。その時、伸二と美沙が戻ってきた。両手に洋弓と矢をたくさん抱えていた。 「部室はメチャメチャだ。道具だけでも運び出さなきゃ。誰か手伝ってくれよ」  そう言うと、伸二は両手いっぱいに持っていた道具を教室の片隅に丁寧に置いた。何人かの男子が腰を上げ、再び教室を出ようとした伸二に続いた。美沙もその後を追った。  伸二たちは部室と教室を何往復かして、アーチェリー部の備品の大半を運んだ。洋弓が十数セットと矢が何十本もある。教室の後ろの一角がまるで武器庫のようになった。 「それで、どうなった。偵察の収穫はあったのか」  伸二は軽く汗をぬぐいながら、俊彦に訊いた。 「ダメだ、全然。掘っ立て小屋みたいな家は何軒かあったけど、人はいなかったみたいだ」 「そうか…」  伸二はかなり落胆したようだった。 「でも、南の方に行った先生たちはまだ帰ってきてない」 「南っていったら、海の方角だな。家が多そうだし、何か収穫があるんじゃないか」  俊彦は期待を込めて深く頷いた。
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