225人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
「返答はいかに」
土井と名乗る男は、副総裁と言うくらいだから、この軍団の指揮官なのだろう。威厳をたたえた口調で再度声を張り上げた。俊彦には、この男が少しいらだっているように見えた。
「これほどの立派な砦を築いたのであれば、堂々と名乗られるがよろしい。無視するのであれば、間諜は死罪に処するが、異存はあるまいな」
死罪。何のことだ。先生を処刑するというのか。冗談にしてはキツ過ぎる。だが、土井は真剣そのものので、極度に緊張した顔つきをしている。とてもふざけているようには見えない。教室の中がざわついた。尋常ならざる空気が生徒にも伝わってきた。
その時、職員玄関から二人の先生が歩み出ていくのが見えた。校長の青柳四郎(あおやぎ・しろう)と谷地頭先生のようだ。谷地頭先生は腰に竹刀を下げていた。がに股で相手をにらみつけている。まるで用心棒だ。しかし、とても似合っている。
土井副総裁は、ゆっくりと二人に歩み寄った。後ろの兵士たちが鉄砲を構えた。
「やばいんじゃないか。こっちは竹刀だけだ」
伸二の言葉に、何人かの生徒が頷いた。
「そなたらはどちらのハンのお方であるか」
土井の声のトーンが大きく落ちたので、話の内容は聞き取れなかったが、何とかこれだけは聞こえた。
ハン。班ではあるまい。江戸時代の藩のことか。そういえば、副総裁の土井はさっき、学校のことを砦と言っていた。
「我々を愚弄するのか」
青柳校長と土井副総裁は何やら言い合っていたが、次に聞こえたのは、土井のこの言葉だった。遠目に見ても、副総裁は明らかにいらだっていた。背後の鉄砲隊は銃口を二人の先生にしっかりと向けている。
「こりゃ、マジでヤバい」
伸二はそういうと、先ほど運び込んだアーチェリーを手にとった。
「美沙、巽と恭二郎を呼んで来い。急げ」
的場巽(まとば・たつみ)と深堀恭二郎(ふかぼり・きょうじろう)は五組でアーチェリー部だ。
「分かった」
美沙は教室を飛び出して行った。
最初のコメントを投稿しよう!