5.ファースト・コンタクト

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「返答はいかに」  土井と名乗る男は、副総裁と言うくらいだから、この軍団の指揮官なのだろう。威厳をたたえた口調で再度声を張り上げた。俊彦には、この男が少しいらだっているように見えた。 「これほどの立派な砦を築いたのであれば、堂々と名乗られるがよろしい。無視するのであれば、間諜は死罪に処するが、異存はあるまいな」  死罪。何のことだ。先生を処刑するというのか。冗談にしてはキツ過ぎる。だが、土井は真剣そのものので、極度に緊張した顔つきをしている。とてもふざけているようには見えない。教室の中がざわついた。尋常ならざる空気が生徒にも伝わってきた。  その時、職員玄関から二人の先生が歩み出ていくのが見えた。校長の青柳四郎(あおやぎ・しろう)と谷地頭先生のようだ。谷地頭先生は腰に竹刀を下げていた。がに股で相手をにらみつけている。まるで用心棒だ。しかし、とても似合っている。  土井副総裁は、ゆっくりと二人に歩み寄った。後ろの兵士たちが鉄砲を構えた。 「やばいんじゃないか。こっちは竹刀だけだ」  伸二の言葉に、何人かの生徒が頷いた。 「そなたらはどちらのハンのお方であるか」  土井の声のトーンが大きく落ちたので、話の内容は聞き取れなかったが、何とかこれだけは聞こえた。  ハン。班ではあるまい。江戸時代の藩のことか。そういえば、副総裁の土井はさっき、学校のことを砦と言っていた。 「我々を愚弄するのか」  青柳校長と土井副総裁は何やら言い合っていたが、次に聞こえたのは、土井のこの言葉だった。遠目に見ても、副総裁は明らかにいらだっていた。背後の鉄砲隊は銃口を二人の先生にしっかりと向けている。 「こりゃ、マジでヤバい」  伸二はそういうと、先ほど運び込んだアーチェリーを手にとった。 「美沙、巽と恭二郎を呼んで来い。急げ」  的場巽(まとば・たつみ)と深堀恭二郎(ふかぼり・きょうじろう)は五組でアーチェリー部だ。 「分かった」  美沙は教室を飛び出して行った。
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