5.ファースト・コンタクト

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「みなさん」  生徒が席に着いたのを確認して、声を発したのは青柳校長だ。 「今日の昼から起こっている、この異常な事態を詳しく説明できないことを悔しく、そして申し訳なく思います」  青柳校長は新学期初日の全校集会で必ず長時間にわたって講話する。体調の悪い生徒が何人か貧血で倒れることもあるくらいの長さであることが多い。今日の口調はいつにも増して、重厚感があった。 「夕方に起こった事件は、この事態が本当の意味で、生徒と教職員の生命に関わる大事であることを図らずも証明しました。のんびりと事の推移を眺めている余裕はないということです」  青柳校長は歴史オタクとの評判で、スピーチにはいつも故事を引用したりして、生徒にとって退屈極まりない講話を長々とする。今日も語り口は同じような感じだったが、職員室にいる全員が一言一句を聞き漏らすまいと、校長を凝視していた。 「なぜ私たちの稜南大四高が、このような場所にあり、このような事態に巻き込まれたのかは、皆目見当がつきません。ですが、あるヒントが先ほどの事件の中にありました。谷地頭先生が一撃で倒した土井利恒という名前に、私は聞き覚えがあります」  全員の目が見開かれた。
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