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「先生方の探索では、校舎の西側、つまり海岸沿いに若干の民家がありました。ですが、人影はありませんでした。生活の気配はあったようなので、もしかすると姿を隠していただけかもしれません。南側に向かった三人の先生はまだ戻っていません。土井氏の言うとおり、捕えられている可能性があります」
教室の片隅で女の人のすすり泣く声が聞こえた。涙の主は養護教諭の松風先生だ。捕えられたとみられるうちの一人と婚約したという噂があった。
「分からないことだらけですが…」
青柳校長は声のトーンを一段上げた。
「はっきりしていることがあります。私たちの学校は非常に大きな危険の中にあるこということです。先ほどは土井副総裁と鉄砲隊を追い返すことができましたが、これで彼らが引き下がるとは到底思えません。まもなく夜が来ます。もしかすると、今夜が最も危ないかもしれない。ヤシュウに備える必要があります」
<ヤシュウ>。日常生活の中ではめったに聞くことのない言葉だ。現実離れした言葉に、俊彦はその言葉が「夜襲」を意味することに気付くのに少し時間がかかった。
「時間は余りないかもしれません。すぐに守りを固めなければなりません。何が起こったのかは分かりませんが、私はこのような事態で生徒や先生を失うことは何があっても避けなければなりません」
そう言い放つと、青柳校長は隣の谷地頭先生に目配せをした。
「それでは、これから行う作業の分担を発表します」
谷地頭先生が立ち上がった。一枚の紙を手にしていた。今は停電中なのでコピーが使えない。メモは手書きなのだろう。谷地頭先生は時々、目を細めて紙を凝視し、集まっている先生と生徒に指示を出した。
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