5.ファースト・コンタクト

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 戦いの準備に忙殺されていたのは先生と生徒ばかりではなかった。公務補の末広正雄(すえひろ・まさお)もその一人だ。五十代後半で頭にはかなり白いものが混じっている。小柄で目立たないおじさんが、ボイラー用の燃料タンクなど校外にある危険物の撤収を急いでいた。 「タンクには二百リットル以上の軽油が残っています。あとはサッカー・ラグビーグラウンド用の芝刈り機にも軽油が少々。来客者駐車場には車が三台ありました。普通の乗用車が二台に軽トラックが一台。いずれもガソリン車です。これは体育館に収納しておいた方がよろしいのではないかと。体育館の守りは手薄ですので、破られたときのため燃料は抜いておきます」  普段は行動スピードが生徒の半分くらいに見える末広は、のんびり屋のキャラクターで通っていた。総じて無口だが、人懐こく生徒に話し掛ける時もある。ただ、この日は目の色を変えてテキパキと仕事をこなしていた。かつて自衛隊に勤務していたという噂も頷ける。  事務室の職員たちは、これら校内の動きを漏らさず記録する係だった。これは青柳校長が命じたのだった。 「戦国時代にも武将たちは右筆(ゆうひつ)という記録係に戦闘や戦術を記録させていたのです。何が起こったのかを後で解き明かす上でも、我々の行動や戦いはきちんと残しておくべきです」
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