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夜の帳が下りた。校舎の周辺に街灯は全くなく、あるのは月明かりだけ。いつ襲ってくるか分からない敵の影に怯えながら夜は深々と更けた。
屋上の地学部の生徒はもちろん、二階と三階の攻撃陣、四階で待機している一般生徒もほとんどが一睡もできずに、冷たい床に座ってじっとしていた。しかし、襲撃はなかった。辺りは完璧に静まり返っていた。虫の声すらしない。
緊張に包まれた長い夜が終わり、空が薄らと明るくなると、生徒の張り詰めた気持ちがやや緩んだ。と同時に多くの生徒が睡魔に襲われ始めた時だった。
「何か見えます。軍勢のようです」
屋上から宇賀浦凌の大きな声が響いた。何かあった時は拡声器を使って即時知らせることになっていた。
二階の三年七組の教室にいた俊彦は飛び起きて、階段を一気にダッシュした。
「どうした。敵襲か」
口径のやや大きな望遠鏡を覗いていた宇賀浦は、俊彦の問い掛けに顔を上げた。屋上の空気は肌を刺すように冷たい。宇賀浦の頬は赤くなっている。こんな中を徹夜で頑張ったのか。
「それにしても、えらい寒さだな」
「天体観測はいつも過酷さ。このくらいたいしたことない」
宇賀浦は再び望遠鏡に集中した。俊彦は空に視線を移した。鉛色の雲が低く垂れこめ、今にも雨が落ちてきそうだ。いや、この寒さなら雪になるかもしれない。
「こっちに向かってる感じじゃない。海の近くの道を北に向かって進んでる」
宇賀浦は冷静に報告した。
「人数はどのくらい」
「ざっとだけど、百人はいると思う」
百人と言えば、昨日の三倍以上の数だ。
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