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「あれ、大砲じゃないか」
宇賀浦は唸るように言った。三倍の兵力に大砲まで加わるとなると、いくら防御を固めても守り切れるものではない。
「ちょっと見せろよ」
俊彦は宇賀浦を押しのけて、望遠鏡の覗き口に右目を当てた。
そこには確かにひとかどの軍勢がいた。先頭は昨日と同じような三角帽子をかぶった兵士が数十人、鉄砲を担いで行進している。その後ろには長槍を持った一団が続く。指揮官と思われる人間もいた。一人だけ馬上にあった。やはり鏡獅子のようなかつらをつけていた。宇賀浦の指摘通り、大砲らしきものを取り囲んでいる兵士もいた。大砲は全部で四門あった。最後には背中に旗を立てた兵士たちが数十人、小走りで続いている。彼らの武器は腰の刀だけだ。
「百人はいる。大軍勢だな」
俊彦は望遠鏡から目を離した。
「とりあえず職員室に報告してくる。こっちに向かってくるようだったら、すぐに報告しろよ」
宇賀浦は「おう」と頷くと、すぐに望遠鏡での観察に戻った。
俊彦が職員室に駆け込んだのとほぼ同時に、屋上から第二報が届いた。
「別の軍勢も現れました。こちらに向かってくるようです」
拡声器を通した宇賀浦の声は、いささか芝居めいていて現実感が希薄だったが、話している内容は深刻だった。
「何!」
青柳校長が立ち上がった。
「ベルを鳴らしてください」
校舎内に非常ベルが響き渡った。「戦闘態勢を取れ」の合図だ。先生たちが次々と職員室を飛び出して行った。生徒たちと同じく、先生にも役割分担がある。
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