6.敵襲開始

5/8

225人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
「ん…」  宇賀浦は小さく声を発した。 「どうした?」 「うん、行進が止まった。あそこに陣地を敷くのかな。随分と遠いぞ」  俊彦が目を細めて、その方角を見ると、かすかにその集団が見えた。確かに距離がある。直線でも二百メートル以上はありそうだ。 「こんなに遠かったら、矢は届かんな」  宇賀浦はぽつりと言った。 「相手の鉄砲の弾も当たらないんじゃないか。にらみ合ってるだけなら、危険は少ない」  俊彦は楽観論を披露した。だが、宇賀浦は即座に言い返した。 「でも、相手には大砲がある。この距離なら楽に届く。学校はでかい的だし、間違いなくどっかに命中する」  俊彦は絶句した。にらみ合うどころか、これでは一方的に大砲の弾を撃ち込まれるだけになる。接近戦になる前に校舎が破壊されて終わりだ。  今いるのが、さっき青柳校長が指摘した時代なら、まず最初に遠方から大砲を打ち込んで敵の陣地を崩し、次に鉄砲隊を送り込むのが戦の定石であることなど、俊彦は知るはずもなかった。驚くまでもない。敵は極めてオーソドックスな攻め方で、籠城した稜南大四高に対峙しているのだ。  俊彦はとりあえず伸二のいる二階の教室に移動した。そこにいると、少し落ち着く。伸二はアーチェリー用のベストを着けて臨戦態勢だった。 「相手は二百メートルくらい先で止まってる。そこから大砲を撃ってくるかもしれん」  俊彦が言うと、伸二はぐっと奥歯を噛みしめた。 「それじゃ手も足もでん」  その時、海の方から花火を打ち上げた時のような音が聞こえた。間もなくして直後に地を揺るがすような衝撃が襲ってきた。 「撃ってきたか」  だが、校舎に被害はないようだった。俊彦が胸をなで下ろしていると、屋上から宇賀浦の声がした。 「艦砲射撃だ。湾内の船から撃ってきた」  さらにもう一発。校舎へと伝わる衝撃は小さくなかったが、着弾地点はちょっと離れている感覚がした。 「全然届いていない。一キロ以上先に着弾してます」  宇賀浦の報告に、俊彦がほっと一息吐いたのを見て、伸二は冷静な口調で言った。 「これは合図だ。すぐに大砲が来るぞ」
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加