7.反撃

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 俊彦が三年七組の教室に入った時、部屋の空気は極度に張り詰めていた。伸二をはじめとしたアーチェリー部と弓道部の部員たちは、窓際に並べられたロッカーの隙間から外の様子を窺っていたが、その表情は一様に険しかった。いつもは陽気な伸二でさえ、青白い顔をして、じっと窓の外を凝視していた。よく見ると、かすかに震えている生徒が何人かいた。 「伸二、大丈夫か」  俊彦は背後から声を掛けた。伸二は振り向きもせずに言った。 「大丈夫な訳ない。びびってるよ、大いにな。インターハイが掛かった県大会の決勝でもこんなことはなかった」  二人の会話が教室に響き渡った感じがした。そのくらい、室内は静まり返っていた。わずかな音にも空気が震えるようだ。濃密な緊張が、生徒たちに重くのしかかっていた。 「敵の進軍が止まりました」  屋上から宇賀浦凌の声がした。隙間から観察すると、人が豆粒に見えるくらいの距離に陣を敷いたようだ。距離にして百メートル以上はありそうだ。 「これじゃ矢は届かない」  伸二がつぶやいた。 「だけど、あそこから撃たれている限り、こっちも安全だ」 「大砲を撃ってこなければいいけどな」  確かにその通りだ。自分たちが討って出ないことを確認して、陣を前に進めただけなら、また大砲による攻撃が再開されるはずだ。しかも、こんどは距離がさっきとは比較にならないくらい近く、位置も正面だ。校舎の被害は甚大なものになる。俊彦は全身に鳥肌が立つのを感じた。 「全員、窓側から避難。廊下に出ろ」  拡声器の声が校舎内に響いた。谷地頭先生の声だ。今、伸二が指摘した危険を察知したのだろう。敵の出方を見極めるまでは、窓際にいるのは危ない。さっきの二年五組みたいになってしまう。  二階の教室から生徒が出てくると間もなく、屋上から報告が届いた。 「鉄砲隊が前進を始めま…」  宇賀浦の声は、あの心臓をわしづかみするような金切音にかき消された。 「来るぞ」  誰かが叫んだのと同時に、着弾の衝撃が校舎を揺さぶった。敵は大砲で怯ませた間に、味方を前進させているのだ。 「くそっ、これじゃ手も足もでない」  俊彦は歯をぐっと噛みしめた。  大砲が四、五発撃ち込まれた後、今度は鉄砲の一斉射撃の音がした。何発かの銃弾は、教室内に飛び込んだ。
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