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3.偵察
学校は小高い丘の上に建っていた。本当なら携帯電話の電波塔が立っている丘が学校の正面に見えるはずだ。学校の建つ丘より若干低く、電波塔の丘の中腹には、住宅街がびっしりと立ち並んでいるはずなのに、住宅や雑居ビルも丘ごとさっぱり消えていた。目の前に広がっているのは、広葉樹と針葉樹が入り混じった雑木林と雑草がたなびく草っぱらだけ。やけに見晴らしが良い。
「街はどこ行った?」
理不尽な光景を眼前に突き付けられ、三十人の生徒は茫然としていた。
「あれは、海じゃないか」
誰かが前方を指差した。快晴にかすんだ彼方には、確かに海があるようだ。黒っぽい大型の帆船らしき船が何隻か停泊していた。しかし、その事実はますます生徒を混乱させた。この稜南大付属第四高校は、海のない内陸の街にある。学校から海が見えるはずがないのだ。
「家もあるみたいだぞ、ほら」
海と思われる方角に、小高い山があった。どこかで見たような形をしていた。その麓には市街地のような集落がかすかに見えた。だが、ここからは遠すぎて、どんな家が建っているのか分からない。
「地震で街が壊れたのとは違うみたいだな」
伸二がつぶやいた。
「ああ、ここは全然別の場所だ」
窓の外の景色から目を離せないまま、俊彦がつぶやいた。
「随分と静かだな。家がないから当たり前か」
伸二が言った。
「それに寒い。真冬みたいな感じだ」
十一月も終わろうとしていたが、ここ数日は冬服だと汗ばむくらいの気候だったはずなのに、窓から吹き込む空気は、初冬のように硬く、冷たい。それが一層、みんなを心細くさせた。
「場所も季節も違う。何が起こったんだ」
俊彦は心の中で自問した。
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