第一章 

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1話「アキと七瀬」 「温水アキ」  名前が呼ばれた。 「はい!」  アキの返事は一瞬遅れた。  アキはぎくしゃくと椅子から立ち上がった。109人の卒業生一人一人の名が呼ばれ、最後に卒業生代表が全員の卒業証書を受け取った。  卒業証書と赤いカーネーションを持って、アキは在校生の拍手の中を泣きじゃくりながら校門を出た。そこで肩を叩かれた。 「こら、一人で帰る気か?」 「あ……」  クラスメイトの星野七瀬も目を真っ赤に泣きはらしていた。二人はなかば呆然と、口数も少なく信州中野の駅まで歩き電車に乗った。 「これから……何するんだっけ?」  力が抜けたような声でアキが言った。 「あとは……来週になったらもう一回学校に来て、調査書出してもらって……願書の提出」 「あ……写真」 「なに?」 「願書に貼るの。撮らないと……」  アキに言われて七瀬は少し考えた。 「えーと確か、湯田中駅近くにあったと思うよ?」 「プリクラじゃだめかな?」  アキが言うと七瀬が嫌な顔をした。 「たぶん、怒られると思うよー」     
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