5人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
製作費を浮かせるためなら、都市部のビジネスホテルでいいと思う。旅番組のロケなら、空港から始まってパワースポットへ向かう…のが道理ではないのだろうか。
「途中のコンビニで、買い出しいいですか? 実は、おばあ一人暮らしなんですよ。料理作るの大変だろうから、何か買って行かないと」
コンビニへ走っていく比嘉くんに、俺は不審の目を向ける。
『どうかしたのかい?』
『ちょっと変な感じがするんです。どうして比嘉くんのご実家に行かなきゃいけないんでしょうか?』
『ん? 宿泊費を浮かせるためじゃないのかね?』
『まともな理屈に聞こえますけどね。冷静に考えてみるとおかしいんです。今の時代、心霊現象のでっち上げなんてパソコンで簡単に行えるんですよ。費用を安く抑えるなら、東京都内のロケ…それも制作スタッフだけで行う撮影で充分なんです』
ディレクターは電話がしたいから、と外へ。千葉ちゃんはトイレ行くついでに比嘉くんの買い物に付き合う、と言ってコンビニへ。スタッフはディレクターとAD比嘉くんとマネージャーの千葉ちゃんだけなので(本格的な撮影は明日だから、本日はカメラマン不在なのだ)、三人いなくなった車内は俺と天使だけになった。人の目がなくなったので、気楽になる。
俺は、ここまでの経緯を改めて天使に伝えた。
千葉ちゃんが悪霊にとり憑かれたことから始まった、オカルト番組のロケかと思いきや旅番組のロケがメイン、という妙な着地点の物語。
『ふむ……千葉ちゃんの悪霊騒動とキミの霊感の暴露、まったく必要ないね』
言われ、俺はがくりと肩を落とす。
『…ですよね。はぁ……自分でもそう思ったけど、他人の口からはっきり言われると凹む……』
『私も、途中から少しおかしい感じはしていたんだ。私に付き合う人間なんて、霊感のある観光客で充分だったのに…』
最初のコメントを投稿しよう!