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比嘉くん曰く、さっきのコンビニが村に一番近い雑貨屋、なんだそうだ。
「……ジャングルだね……」
車一台しか通れない細い道の周りは、草なのか木なのか見分けがつかないほど、植物が生育して茂っている。それを見た千葉ちゃんの純粋かつ的確な感想に納得しつつ、俺は、緑色の中から時折聞こえる「チーチーチチチ」「ケケケケ」「カカカカ」という、鳥の声なのか虫の声なのか妖怪の声なのか、区別ができない生物の声に溜息をついた。
「本当にこの先に村があるの?」
運転手を務めている比嘉くんに聞く。後ろからのぞき込んだカーナビでは、道がない場所を突き進んでいるように見えるんだが……。
「村人しか知らない近道なんです。カーナビ通りに行くと大回りすることになっちゃうんですよ」
俺の視線を感じ取ったのか、比嘉くんはもっともらしいことを言う。
「ふ~ん……」
これから起きる怖い出来事を、なるべく考えないようにしていた。だが、窓にペタリと張り付いた虫を見たら、無視できない現実に泣きそうになった。
今の何……? 人間の瞳をしてたんですけど……。
『害がないから大丈夫だよ』
助けてくださいと訴えたのに、天使は笑顔で遮った。
「霊感あるんだよね。何か視えたら教えてよ」
助手席のディレクターが笑いながら言う。
「どうやって視えるんですか? 僕はそういうの全然なんですよねえ。カミヌーリの家系らしいんすけど、男には遺伝しないらしくって」
「使えねえなあ」
「だから、ADやってるんですよ。使えてたら、沖縄で占い師やってますって」
「それもそうか。あはははは」
「ヒサシくんもサーターアンダギー食べる?」
俺一人テンションが低く、周囲は普通の空気だ。千葉ちゃんが差し出したサーターアンダギーの甘い匂いによって、ここは異空間ではなく普通の日常、ということを思い知ることになり、さらに俺のテンションは下がった。
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