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目覚めると蚊帳の中にいた。
「夢だったんだ」
ほっとしながら弘樹は目を擦った。
台所の方からおいしそうなお味噌汁のにおいがしてきた。
「坊、よう眠れたか?」
口をもごもごさせてオハマが部屋に入ってくる。
「はい。ありがとうございました」
弘樹は布団をたたんで頭を下げた。
吊るした蚊帳を外すのを手伝い、朝食の準備も手伝う。
「おばあちゃん、なんでここらあたり猫村って言うんですか? 猫、見かけないのに」
茶碗を並べる弘樹に味噌汁をよそうオハマの手が止まった。
「昔はぎょうさんおってそう言われてたんや。けど今はだいぶ減ったなぁ。
坊は猫好きか?」
「はい。すごく好きです」
「そうか、そりゃよかった。わしも作った甲斐があったわ」
「え? 作ったって?」
弘樹は棘のように引っかかった言葉を思わず聞き返していた。
「ネコ団子や。
ここらではご馳走やで、おまんに食べさせたろ思てな。
ゆうべ食べたやろ?」
はははとオハマが笑うと口の中で転がる猫の目玉が見えた。
その笑顔に祖母の笑顔が重なった。
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