第3章 ジレンマ

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俺の里親、菱見 源治は、少しは名の知れた泥棒だった。裏の道では、" 抜き目の源治 " と呼ばれていた。 俺を跡目にするつもりで、引き取ったそうだ。 俺は腕を叩き込まれ、二十歳の時には一人で盗みにも入れる程になっていた。 しかし俺が二十八歳の時、源治は病で亡くなった。 結局また、俺は一人となったのだ。 元々、盗み以外の世界にも興味があった俺は、偶々タクシー運転手の募集を見つけた。 ただ車が好きだと言うだけで、面接を受けてみた。 そしてそんな俺に、社長の舟木さんが言ってくれたのだ。 「タクシーに乗っていると、色んな人間と触れ合うんだ。良いも悪いも分かっちまう。ピンッと来るんだなこれが。お前はまだ若いんだし、一度経験してみな」 俺はその一言で、仕事を決めた。
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