第3章 ジレンマ

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俺はその日の晩、ブラッディの前に立っていた。 勿論、盗みをする為ではない。 俺は店のドアを開けた。 「いらっしゃいませ」 俺は真っ直ぐに、指輪が陳列されているケースに向かった。店の中の陳列位置は、既に頭の中に入っている。 「あの、これ見せて貰えますか?」 「はい、これですね」 「いや、その隣の…安いやつ…」と俺はかしこまって言った。 「これですね。はい、どうぞ」 安物と分かっていても、俺にとっては背伸びした品物だ。 「あの、プレゼントに包んで下さい」 店を出た俺は、満足していた。 これでいいんだ。きっと澄恵も喜んでくれるに違いない。 そして車に乗り込んだ時、携帯が鳴った。 名前を見ると、澄恵の花屋のオーナーからだ。 「もしもし」 ( ああ、もしもし!拓ちゃん?澄恵ちゃんが大変なの!病院に運ばれて…) 俺は嫌な予感がして、慌てて病院に向かった。 俺が駆けつけた時、澄恵は手術室から出てきた所だった。「澄恵!おい澄恵!」 澄恵は既に、息をしていなかった。 「どうしてこんな事に?」 付いていてくれた、花屋のオーナーの幸子さんが言った。 「事故だったの。遅い配達だから私が行くって言ったのに澄恵ちゃん、気を使って…ううっ…」 幸子からは嗚咽が漏れていた。 すると「大変な時に恐縮です」と警官が入ってきて、事の次第を伝えた。
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