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俺はその日の晩、ブラッディの前に立っていた。
勿論、盗みをする為ではない。
俺は店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
俺は真っ直ぐに、指輪が陳列されているケースに向かった。店の中の陳列位置は、既に頭の中に入っている。
「あの、これ見せて貰えますか?」
「はい、これですね」
「いや、その隣の…安いやつ…」と俺はかしこまって言った。
「これですね。はい、どうぞ」
安物と分かっていても、俺にとっては背伸びした品物だ。
「あの、プレゼントに包んで下さい」
店を出た俺は、満足していた。
これでいいんだ。きっと澄恵も喜んでくれるに違いない。
そして車に乗り込んだ時、携帯が鳴った。
名前を見ると、澄恵の花屋のオーナーからだ。
「もしもし」
( ああ、もしもし!拓ちゃん?澄恵ちゃんが大変なの!病院に運ばれて…)
俺は嫌な予感がして、慌てて病院に向かった。
俺が駆けつけた時、澄恵は手術室から出てきた所だった。「澄恵!おい澄恵!」
澄恵は既に、息をしていなかった。
「どうしてこんな事に?」
付いていてくれた、花屋のオーナーの幸子さんが言った。
「事故だったの。遅い配達だから私が行くって言ったのに澄恵ちゃん、気を使って…ううっ…」
幸子からは嗚咽が漏れていた。
すると「大変な時に恐縮です」と警官が入ってきて、事の次第を伝えた。
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