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俺はその男の前に立ちはだかった。
「詫びろよ。そしてちゃんと金を払え」俺はそう言った。
「何だお前は?正義ぶってるつもりか?」男は急に右足を蹴り上げた。
俺はすかさず、その足を小脇に抱え込んだ。
何年泥棒家業やってると思ってんだ?
そんなノロマなスピードじゃ、ハエも止まっちまうぜ。
俺はその足を真上に持ち上げた。
「うわっ!」
男はたちまち、背中から地面に叩きつけられた。
そしてそのまま、腕を後ろにねじり上げる。
「痛たたっ!やめろ、折れちまう!」と男はじたばたと喚いている。
目の前で、澄恵がぽかんと見ていた。
「これ全部でいくらですか?」と俺が訊いた。
「はっ?」澄恵は目をぱちくりさせている。
すると奥から店長らしき女性が、電卓を弾きながら出てきた。
「ええっと、締めて三万五千円です」
俺は男の懐から財布を抜き取り、四万円を女性に渡した。
「あっ、てめえ!」と男が反抗したので、また腕を締め上げてやった。
「痛たたっ!お釣りはいいです」と男はすごすごと退散して行った。
「あの、ありがとうございます」と澄恵は頭を下げてきた。
「いや、別に」と俺は頭をかいた。
「ズボン、汚れちゃいましたね」と澄恵は、俺を店の中へ入れてくれた。
それが初めての、二人の会話だった。
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