0人が本棚に入れています
本棚に追加
澄恵は自分の事を、何でも話してくれた。
母親も花が好きで、本当は " スミレ " と言う名前になる筈だったのに、何故だか " スミエ " となってしまった事。
幼い頃、両親が離婚して母子家庭で育った事。
そして二十歳の時、母親が病気で亡くなって自立した事や、それから現在まで花屋に勤めて六年になる事など。
どこか境遇が、俺と似ていた。
俺も自分の事を素直に話した。
泥棒と言えば、誰もが敬遠するだろう。
しかし澄恵は違った。
「今は真面目に働いてるんでしょ?ならいいじゃない」澄恵は笑って言ってくれた。
ああ、あの頃が懐かしい。
* *
窓の外は、雪がチラついて来た。
俺はタクシーを走らせた。
今日は何か澄恵に、危険はないか思い出してみる。
しかし特に思い当たらなかった。
残念なのは、今日の記念日に外食を予定していたが、大雪で中止になったくらいだ。
俺は久し振りに、澄恵の仕事ぶりを見に寄ってみる事にした。
「あら?拓ちゃん。ごめんなさいね。今、澄恵ちゃん銀行に行って貰ってるの」と幸子さんが言った。
「そうっすか」と応えた後「すぐそこですよね。俺、声だけ掛けて来ます」と通りの銀行へ向かった。
雪の降る日は客もまばらだ。
銀行を覗くと、窓口に澄恵が見えた。
俺は足元も軽快に、中へと入って行った。
すると「大人しくしろ!」と突然、怒鳴り声が聞こえたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!