第5章 真実

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第5章 真実

数人の客も、行員も固まっていた。 男が出刃包丁を振りかざして、窓口の客を掴み上げた。 「きゃっ!」 お、おい待てよ! よりによって、その客は澄恵だった。 「この鞄に金を詰めろ!」男は窓口の行員に鞄を投げた。 俺は思わず、他の客を押しのけて近づいた。 「拓ちゃん!」 「澄恵!おい、馬鹿な真似はやめろ!」 こんな所で、また澄恵を失ってたまるもんか。 「お前、動くとこの女、死ぬ事になるぜ」と男は太々しく叫んでいる。 顔も隠さず衝動的な行動は、どう見ても日銭欲しさとしか思えない。 あれ?こいつ何処かで… 白髪混じりに、顎に大きなホクロがある。 そうか!赤信号で飛び出して来た男だ! 二度も澄恵を殺すつもりか? もしここでこいつを逃したら、四日後に澄恵は事故で死んじまう。 「なあ、落ち着け。人質なら俺でいいだろう?俺と変わろう」 「馬鹿野郎!その手に乗るか!おい、早くしろ」と男は行員を急かせた。 そしてチラッと男が横を向いた時、俺は迷わず飛びかかった。 「くそっ、お前!」 澄恵は横に飛ばされて、俺は男と絡み合った。 「警察を!」と奥から男の行員が叫んでいる。 俺は抑え込む自身はあったが、中々この男は力が強かった。包丁を奪うのに必死だ。 「この野郎!」 二人は絡み合ったまま、床に転がった。 ドスッ!
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