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「ううっ」腹に痛みが走った。
包丁は俺の腹の上に、深く突き刺さっていた。
「ば、馬鹿が」男は狼狽えて立ち上がろうとしたが、俺は足にしがみついた。
「離せよ!この死に損ないが!」と男は、俺の顔面を何度も蹴りつけた。
「拓ちゃん!」澄恵は側でおののいている。
くそっ!死んでも離すもんか。
お前を野放しにしたら澄恵が、澄恵が…
もう意識が失くなってきた。
すると周りが、騒がしくなって来たと思えば
「おい!抵抗するな!」と警官がなだれ込んで男を押さえ込んだ。
やっと来たか…
死ぬってこんな感じなのか?
「拓ちゃんしっかりして!」
目の前に澄恵が見えた。
やっぱり相変わらず眩しいや。
「あいつは…捕まったのか?」
俺は小さく呟いた。
「うん。もう大丈夫よ」澄恵は涙ぐんでいる。
良かった。
本当に良かった…
そして俺は、手足の感覚すら何も感じなくなっていた。
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