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澄恵が死んだ。
ろくでも無い俺と付き合ったばかりに、彼女は死んでしまった。
クリスマスを間近に控えた十二月二十三日の朝、ちょっとした事で彼女と喧嘩になった。
「拓郎!これどうしたのよ?」澄恵がネックレスを手にぶら下げて、奥の部屋から飛んできた。
俺は朝食のパンを皿に置き「いや、それは…何だよ!勝手に人の物を見るなよ!」と、つい喧嘩腰に言ってしまった。
「こんな高価な物、買えるはずないでしょう?また昔の癖?もうやらないって言ったじゃない!」
澄恵の言葉に、俺はぐうの音も出なかった。
俺は十六の頃から泥棒家業をしていた。
両親を早くに亡くした俺は、親戚をたらい回しにされた末、施設に入れられた。
そして十二歳の時、里親に引き取られたのだが、そいつが言わばコソ泥だったのである。
半ば強制された俺は、生きる為にその道しか残されていなかった。
俺はたまたま、運動神経や勘の良さに恵まれたが、人間関係にはそれほど恵まれなかった。
そしていつしか続いた泥棒家業に、やっと終止符を打つ事が出来たのである。
それはまさしく、澄恵との出会いが全てを一変した。
彼女は俺にとって眩しすぎた。
彼女の笑顔があれば、それでいいと思ったし、彼女の望む物は何でも叶えてあげたいと本気で思った。
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