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第2章 12月23日
澄恵を天国に送ってから数日、俺はただ、タクシーを走らせた。
他に何をしたらいいのか、思いつかなかったからだ。
「拓郎、ほら元気出せよ。いつまでも落ち込んでいても仕方ないだろう?」青空タクシーの社長、舟木さんは俺を心配してくれた。
俺はここに勤めて二年になる。
こんな俺を、舟木さんはよく採用してくれたものだと、今でも感謝している。
そんなある日の事、黒いスーツを着た老人を乗せた。
白髪頭で物静かな、小柄な老人だった。
大きなケースを持っていたので、後ろのトランクに詰めた。
そしてしばらく走っていると「お前さん、何かあったのか?浮かぬ顔をしておる」と老人が声をかけて来た。
「まあ、大切な人を亡くしまして…」
と、俺はそれ以上は口にしなかった。
しばらく沈黙が続いた。
するとまた「お前さん、後悔しておるのか?」と訊いて来た。
何だよ、このじいさん?
「ええ」とだけ応えた。
すると突然「ここで止めてくれ」と老人が言い出した。
ここは郊外の外れで、何もない所だ。
「こんな所でいいんですか?」と俺は訊ねた。
「構わんよ。後ろのケースを出してくれるか」と老人が言ったので、金を受け取りトランクを開け、中のケースを持ち上げた。
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