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すると持ち上げた瞬間、重かったケースが急に軽くなって、俺はケースを抱えたまま尻餅をついた。
「ありゃ?どうなってんだ?」
「はっはっは、いやあ、済まん済まん。手袋を汚した様じゃな」
右手を見ると、白い手袋が泥で汚れていた。
「まあ、大丈夫ですよ」と俺は起き上がり、ズボンを叩いた。
「お詫びに新しい手袋を進呈しよう。後悔しないようにのう、菱見 拓郎君」
俺はキョトンとして、老人を見た。
「え?どうして俺の名前を?」
「メーターの上に書いておろうが。はっはっは」と老人は、笑いながら行ってしまった。
俺は呆然とじいさんを見送っていた。
何なんだあのジジイは?
俺は運転席に座って、ルームミラーを調整し直そうとした。すると、ミラー越しに後ろの座席に何かを見つけた。
「忘れ物かよ」と振り向くと、白い布地の手袋だった。
手に取って見るとかなりダボダボで、大き過ぎて俺の手には合わない。
しかも右手の片方だけだった。
「何で両手じゃ無いんだよ。それになんだこの文字は?」
甲の部分に、アラビア語みたいな文字が赤色でいくつか書いてある。
「全く読めねえし」
俺は手袋をダッシュボードに入れようとした。すると何かメモが落ちた。
" グローブを装着し、指を鳴らせ " と書いてあった。
どう言う意味だ?グローブってこの事か?
俺は試しに、その手袋を右手にはめてみた。
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