3人が本棚に入れています
本棚に追加
黒板のチョークのリズムに合わせ唱えるのは先生の低い声、本当に授業って退屈だ。
隣を見ると、まじめにノートをとるえのちゃんの姿があった。
昔の僕ならすぐ邪魔していた気がするけど、今の僕にはできない。
だって、真剣な彼女の表情も素敵だから……。
垂れさがってきた髪を耳にかけ、大きな瞳でまっすぐノートを見る横顔。
横から入ってくる太陽光で、瞳が琥珀のように透き通り、クリアな目のドームを光が泳いでいく。
ああ、あのノートになりたい。本気でそう思う。
社会人になってから忘れてしまった平穏な日々。
窓の外は穏やかで、少し風が吹いている。
木の緑の葉がゆらゆらと揺れ、その幹で鳥たちが井戸端会議を開く。
気が付くとえのちゃんが僕を見ていた。
木の葉を透かし入り込む日光はゆらゆらと揺らめき、彼女を包む。
吸い込まれそうな澄み渡った瞳が僕を見詰めていた……。
「どうしたの?」
顔を傾けた時、耳に掛けた髪が少しだけ外れ彼女をくすぐる。
彼女はそれを耳にかけ直し、頬を吊り上げニッコリと頬笑む。
ミニスカートの制服で膝を揃えて小ぢんまりと座り、シャーペンを握って勉強している姿で……僕に幸せを振り撒く笑顔をみせる。
木の葉に揺れる外の日差しに包まれた……そんな彼女は一枚の絵になりそうな程、綺麗で可愛かった。
『綺麗で可愛い』それをいってしまって良いのか……僕はそんなことを考えた。
まあ、僕が元の時代に戻った後、この時代の僕が恥ずかしいだけだし……。
でも、もしこのまま戻れなかったら……?
でも、それでそれはそれも良いか……って。
「どうしたの?えのに何かついてる?」
彼女がもう一度聞いた。
「いや、綺麗で可愛かったからみとれてた」
一瞬、時が止まったように目を丸くして彼女の動きが停止した。
頬の赤みがみるみる周りに広がっている気がした。
最初のコメントを投稿しよう!