喫茶店

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黒板のチョークのリズムに合わせ唱えるのは先生の低い声、本当に授業って退屈だ。 隣を見ると、まじめにノートをとるえのちゃんの姿があった。 昔の僕ならすぐ邪魔していた気がするけど、今の僕にはできない。 だって、真剣な彼女の表情も素敵だから……。 垂れさがってきた髪を耳にかけ、大きな瞳でまっすぐノートを見る横顔。 横から入ってくる太陽光で、瞳が琥珀のように透き通り、クリアな目のドームを光が泳いでいく。 ああ、あのノートになりたい。本気でそう思う。 社会人になってから忘れてしまった平穏な日々。 窓の外は穏やかで、少し風が吹いている。 木の緑の葉がゆらゆらと揺れ、その幹で鳥たちが井戸端会議を開く。 気が付くとえのちゃんが僕を見ていた。 木の葉を透かし入り込む日光はゆらゆらと揺らめき、彼女を包む。 吸い込まれそうな澄み渡った瞳が僕を見詰めていた……。 「どうしたの?」 顔を傾けた時、耳に掛けた髪が少しだけ外れ彼女をくすぐる。 彼女はそれを耳にかけ直し、頬を吊り上げニッコリと頬笑む。 ミニスカートの制服で膝を揃えて小ぢんまりと座り、シャーペンを握って勉強している姿で……僕に幸せを振り撒く笑顔をみせる。 木の葉に揺れる外の日差しに包まれた……そんな彼女は一枚の絵になりそうな程、綺麗で可愛かった。 『綺麗で可愛い』それをいってしまって良いのか……僕はそんなことを考えた。 まあ、僕が元の時代に戻った後、この時代の僕が恥ずかしいだけだし……。 でも、もしこのまま戻れなかったら……? でも、それでそれはそれも良いか……って。 「どうしたの?えのに何かついてる?」 彼女がもう一度聞いた。 「いや、綺麗で可愛かったからみとれてた」 一瞬、時が止まったように目を丸くして彼女の動きが停止した。 頬の赤みがみるみる周りに広がっている気がした。
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