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あれから何日かって週末が来た。
僕は仕事が休みなのにも関わらずいつもの喫茶店に来て外を眺めていた。
お客は僕ひとりの静かな喫茶店。
行き交う人を見詰めるのはこの喫茶店ではないのか?と錯覚するほど、僕はため息と共にこの喫茶店に溶け込んでいた。
あれから、あの夢は全く見ない。
夢とは思いたくないほどリアルな感覚だったあの夢。
マスターが僕の横にそっとコーヒーを置いた。
沸き立つ白い湯気は眠りをさせってくれそうなほど柔らかく。
それでいて、頭をマヒさせるようないい香りがした。
しかし、眠りには到底行きつかない。
そして、コーヒーを一口、口に含んだ。
苦みの奥に確かなコクがあり、さらりと喉へ抜けていくと、香りが鼻をさかのぼり、目から脳へと覚醒させる。
外では、カップル達が楽しそうに手をつないで歩いている。
僕は人の幸せを見て何をしているんだ……。
前を向かないと、あの夢はきっと息抜きみたいなものだったんだ。
僕は、吹っ切れた表情で店を後にした。
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