喫茶店

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喫茶店

営業職で一番良いと思った事は、朝、数件の御客さんを回った後の、この香り沸き立つ一杯のコーヒーだ。 「営業行ってきます!」とホワイトボードに遅めの帰社時間を書いて、早めに事務所を飛び出し、数件回って、喫茶店でゆっくりとしていた。 別にサボっている訳じゃないんだ。 建築建具系の営業マンは大工さんとかの所にまわるんだけど、大工さんは朝一と夕方遅くしかいないから、良いんだよ、この時間は。 ここは僕のお気に入りの喫茶店。アンティークと言うより、使い込まれた机、そして使い込まれたかなりふかふかなソファー、使い込まれた本棚には新聞やマンガ雑誌が用意され、営業マンのおじさん達のための場所となっている。 とても静かで落ち着いていると言うことだ。 僕もいつの間にか、その一人となっていた。 静かな店内に響くのは小さなブラウン管のテレビのニュースだけ……。 「ニュースをお伝えします。日本の人工衛星『希望』の打ち上げが明日にせまっているなか……。」なんてニュースが今は流れている。 人工衛星か……成功したら、どっかセールとかするかな? コーヒーの香りを口に含ませながら、しばし無駄な時間を過ごした。 次の日。 今日は雨が降っていた。 嫌な音だ胸の奥底を叩くように、耳のすぐ横で打ち鳴らされる様な雨音が嫌いだ。 今日も喫茶店に来た。スーツの雨粒を素早く払い落とすと、逃げるように店内へと入った。 「ニュースの時間です。今日打ち上げられた『希望』は大気圏内で爆発したとのことです……」 ニュースまで暗いとは本当に雨の日は嫌いだ。 今日は、やたらと眠いのもあってブラックを頼んだ。
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