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「おおすかしば? それってどんな鳥ですか?」
「鳥じゃないっ! 蛾だ!!」
「……ガ?」
「まさか、知らないのか?」
「知りません」
「チョウ目スズメガ科オオスカシバ。スカシバと名前がつくが、スカシバ科ではなく、れっきとしたスズメガ科の仲間だ。目がくりっとしてて、触覚がこう、いい感じに長くて、ハチドリなんか目じゃないくらいめちゃくちゃキュートな昆虫だ。羽化したての翅には白い鱗粉があるが、細かく羽ばたくうちに脱落して透明になるんだ。蝶や蛾は鱗粉がなくなると飛べなくなる種が多い中、オオスカシバは鱗粉を自ら落として蜂に擬態する道を選んだんだよ。すごいだろ! 毒の鱗粉付けるという身の守り方ではなく、あえて擬態を選んだんだ。リスペクトしかないだろ。あのうぐいす色の体と雪のように白い腹部! チラシはオオスカシバの特徴を精巧に捉えていただろうが!」
「……そもそもあたし、おおすかしばを知らないんで」
「大人気ないよ、向井君」
アキアカネがぽんと向尸井の肩に手を乗せる。
「むしかいだ! 苗字を間違えるなら手塚にしろ! オサムシを愛した手塚大先生に間違われるならいざ知らず、誰だ、向井ってのは」
今度はほたるが驚く。
「知らないんですか? すごくカッコイイ、イケメン俳優ですよ」
「知るか! とにかく」
向尸井がこほん、と咳払いをしていきなり営業スマイルに変わる。
「お帰りください」
ダメか。とほたるはため息を吐いた。
「じゃあ、帰ります」自動ドアへ進むほたるの後ろで「もったいないなぁ」と、アキアカネが呟いた。
「僕の見る限り、あの子は蜻蛉と同じむしを飼っている。あの子を傍に置いておけば君の探しモノが見つかるかもしれないのに」
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