小百合との暮らし

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 右がカー用品店、左が大きい広場で、小さい噴水もある。平日だと親子連れは少ないが、子どもの声が明るく響く。目の前に埠頭があり、港が見える。前方には巨大な橋が架かっている。上側が西行き、下側が東行きだ。阪神高速湾岸線。二本の白い鉄塔が雄大にそびえたち、斜めにケーブルを張って桁を支えていた。阪神淡路大震災前は大型船が出入りする神戸東の船着き場だったようだ。あとで人から聞いた。立派な橋に面した波止場は、広場と商業施設に模様替えした。  デッキの二階に上がると、展望が開けて気持ちいい。マクドナルド、びっくりドンキー、ラーメン屋、奥にはヤマダ電機がある。デッキから海を臨むと、神戸のハーバーランドのモザイクを連想させる。港町の面影はわずかに残るが、どことなくうら寂しい。海からの風が強く吹きつけ、髪の毛がなびく。モールの面積は大きいのに、人気の少ないのが少し残念な感じだ。  すこし北に上がると、コナミスポーツクラブがある。小百合がいたら、そこでダイエットでもしたらといわれそうだ。さらに北上すれば国道二号線になり、ダイエー甲南店がある。二号線は道が広く、カーディーラーの店舗や大きい店、マンションなどが建ち並ぶ。町並みは開けていて解放感と洗練された甲南の雰囲気が漂っていた。オレや小百合には、阪神沿線の方がよっぽど似合っている気がした。下町の匂いがするからだ。オレたちにとって、他人との距離感の近い方が居心地はいい。  小百合の服装は黒かネイビー系統の色が多かった。いつもロングスカートを履いていた。髪型はくせ毛をストレートにしているらしく、ときどき毛先が撥ねてくると美容室に行くらしかった。はっきり訊ねたことはないが、よく観察していると、どうもそうらしかった。彼女はオレの服装について、とやかくいわなかったが、髪が伸びると、そろそろ切りにいったらと勧めてくれた。夫の身だしなみには最低限気を配っている様子だった。  小百合は前の職場で一緒に働いていた同僚とさほど連絡をとっていないようだった。いや、最低限のつながりはあったのかもしれない。ときどき携帯を指でしきりに押していた。
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