小百合との暮らし

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 小百合のパートは日曜、木曜以外の週五日だ。一日四時間のシフト制で、昼間シフトのかき入れ時に入ったようだ。二人か三人で回すので、近くの工場や工事現場のお兄さんが買いにきて、めちゃくちゃ忙しいと最初の頃はこぼしていた。弁当屋は初めてで、レジ打ちから習ったが、覚えがよかったのか一週間で慣れた、と小百合はこともなげにいった。そのうち調理の補助もやるようになり、サラダや漬け物、スパゲティの盛りつけも担当した。容器の種類などはけっこう間違えて先輩主婦に叱られ、しゅんとすることもあったが、持ち前の明るさでなんとか乗り切れたという。昼間の回転の速さに慣れてしまえば、調理もするようになった。フライヤーで揚げ物をしたり、炒め物を作ったりもしたらしい。家の献立を考える方がよっぽど大変だとは最近の彼女の口癖だ。  五月にもかかわらず曇りや雨の日も多く、アパートの中は部屋干しした洗濯物がやたらと目についた。オレは煙草を吸わないが、ときたまパチンコに行って帰ってくると、 「また煙草臭いわ。パチンコ、行ったでしょ?」  と小百合が顔をしかめた。服に煙草の臭いが染み付くのだ。  五月でも曇りや雨の日が多く、晩に帰宅しても、洗濯物を部屋干ししているのがやたらと目についた。夜が暑くなり、窓を開けて寝ることも増えた。この季節になると、シャワーで風呂を済ませても構わなくなった。  六月になると、雨で靴下が濡れ、通勤中や職場で不快なときを過ごすのが増えた。  気が滅入りそうになるので、日曜日になると小百合を連れ出し、映画を観にいった。そのとき観たのは邦画で、田舎を舞台にしたものだった。家族の日常を描いたもので、しんみりしていた。  小百合が仕事終わりに産婦人科に通うようになり、もしやと期待したが赤ん坊の誕生ではなく、女性特有の病気の方らしかった。男にはよくわからない分野であり、早く治ればいいよな、としか口添えできなかった。  七月はオレの、八月は小百合の誕生日だった。  オレのときは、二人で神戸に出掛けて食事をした。小百合は鞄からプレゼントを取り出した。ネクタイだった。水色地にクリーム色のドットをあしらったものだ。爽やかなイメージで夏にぴったりで、いかにも小百合らしいプレゼントだなと思った。  小百合の誕生日にはダイソンのコードレス掃除機を贈った。かなり高い買い物だった。 「これで掃除が楽になるだろう」
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