小百合との暮らし

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 小百合が来てから部屋の景色が一変した。汚かった部屋は片付けられ、食卓にはそれ相応のおかずが並ぶ。ある日は、鰈の煮付け、小松菜のゴマ汚し、レンコンの金平、高野豆腐、林檎だった。別の日は、鯖の味噌カツ、シーザーサラダ、豆腐の白和え、キウイだった。そのどちらにも好物の納豆パックを付け足してくれた。それまではというと、スーパーの惣菜や弁当中心だった。たまに、刺身、野菜炒め、味噌汁を作ることもあった。けれど、栄養的に偏っていた。そもそも果物を食べていなかった。  いまは快眠、快便で仕事に精を出し、昼は小百合の手弁当だ。内縁の妻とはいえ、パートナーを得るとこうも生活に張りがでるのかと思った。毎日起きるのが楽しかった。食卓の向こうに相手がいて一緒に食事を摂るのは、前妻以来ずいぶん長かった気がした。最初の妻、博美は自己中心的で、相手に合わすのがとにかく嫌い。こちらが和食派なのを知っていて、一人でトーストにサラダを食べていた。しかも、パートが十時なので、八時過ぎにならないと起きてこなかった。こちらが我慢すべきだとは分かっていたものの、いろいろとすれ違ったままで博美は子どもを連れて家を出ていった。独身に戻り、職場では憐れまれた。寂しい毎日がオレの体をいたぶっていた。  小百合を口説こうと思ったのは、パチンコ屋で見かけた新人で、笑顔が素敵だったから。ただそれだけの理由だった。休みの日をしつこく訊きだし、ドライブに誘った。もちろん小百合の方もどういう意味なのか分って姿を見せたはずだった。  九月から付き合いが始まった。一か月後には同居していた。離婚経験が一度あるのはすぐに話した。今度はその経験で学んだことを活かして、二度とパートナーに嫌な思いをさせまいと努力した。その様子を褒められ、いい流れができて交際が軌道に乗り出した。正月に帰省してお互いの親にも引き合わせ、ちゃんとしているのなら当人たちの自由な意思に任せようと承諾を得た上で、婚姻届を出した。式は挙げてない。子どもが授かり、子育てが上手くいった時点で式を挙げてもいいわ。彼女は控えめにそういった。
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