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「え~なになに、ちなみにこの呪文の効果を上げたい場合、媒介となるラピスラズリを加工して作った飛行石を装備するとよい。てかぶっちゃけその石がないと発動しないブッフウウウウウッてこんな重要なことちっこく書いてンじゃねえよ! この本いくらしたと思ってンだ、こちとら無職のニートだってのにクッソォォォどいつもこいつも俺が自宅警備員になったとたんナメやがってえ。今に見とれえ……絶対元取った、あ、いや、見返してやる。まーいい、とにかく次だ」
『人の精神を意のままに操れる』
この呪文は最も禁忌とされ、取り扱いは十分に気を付けなくてはならない上位精神系呪文である。媒介させる小道具は一切不要。唱えた瞬間から世界中の誰もが貴方の虜になるわ♪ あと、恥ずかしがっちゃダメよ。心の準備ができたら窓を開け、世界に向けて大きな声で貴方の存在をアピールするように唱えるのがポイントよウフフン♪
「か。なんか途中から文面が変わったような気が……。まーいい、これにキメた。よくよく考えりゃいきなり世界をぶっ壊してそのあとどうすンだって話だ。復興させるなんて俺のプランにはねーし興味もねえ。とにかくこれで周りのヤツラを思いのまま操って残りの人生謳歌してやるとするぜウシシシ」
俺は魔道書の65ページ目をあらため、但し書きがないかを入念にチェックしたあと起き上がり、窓の前に立って勢いよく左に引いた。夏の湿った空気がなだれ込んでくる。
しかし思えば、ここに記されているようなことを純粋に試みる人間はこの世に存在するのだろうか。多分ゼロに違いない。理由は恥ずかしいから。いや違う。こんなの誰も信じていなからだ。
たとえば量子力学の話。
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