1、ヴァンパイア・クレーマー

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 ピンポーン。  俺の思考を遮るように玄関のチャイムが鳴った。夜の九時。こんな時間に、誰だ? 「はい?」  インターフォンに出ると、 「夜遅く申し訳ありません。お届けものです」  差出人として母親の名前を答えられた。ああ、またなにか送ってくれたのか。  ドアをあけると、帽子を目深に被った宅配会社の制服が立っていた。 「重いですよ。中、入れますよ」 「あ、じゃあ、お願いします」  素直に二、三歩奥に入り、道をあける。配達の人は中に入り、 「はー、疲れたなぁ」  そう言いながら荷物に寄っかかるように、倒れ込んだ。のは、若い女だった。瞬きするような間に、服装が制服から、なにやら黒い服に変わっている。待て、何が起きた? 「意外と重いものだなぁ」  とか言いながら、展開についていけない俺を無視して、女は立ち上がりドアを閉める。 「不用心だからね、閉めておくよ」 「え、あの、誰ですか? っていうか、荷物?」 「荷物は本物だから、安心するがよい」  荷物の上に腰掛けて、女が偉そうに言った。 「優しい母上だな。連絡しているのか?」 「それは、まあ……。じゃなくて」  今、何が起きた? 理解が追いつかない。 「……え、宅配の人は? 服は?」 「私だよ。少し術で服をいじったのだがね」 「ま、術? え、なに、誰、あんた。……え、熱狂的なファンとか?」  冷静に考えたら、ヤバい状況じゃないか? 「ファン?」  だが、女は不満そうに形のいい鼻をふんっと鳴らした。 「君はあれかね、女性は全て自分に夢中だと思っているのかね、上条修司」  不遜だねぇ、と揶揄するように言われた。  決して驕ることがないことで評判の、シューくん相手になんて言い草だ。  しかし、こんな変人女と一緒にいるときに、そんなこと言ってる場合じゃない。逃げたい。しかし、ドアは女が塞いでいる。警察に電話……、している間に刺されでもしたらどうしよう。 「私はね、君」  おろおろと辺りに視線をやる俺を気にすることはなく、女は人差し指をびしっと突きつけてきた。細くて長い、白い指。 「クレームをつけにきたのだよ」 「く、クレーム?」 「そういえば、自己紹介がまだだったね」  女はゆっくりと微笑むと、告げた、 「私はダイアナ。吸血鬼だよ」
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