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ピンポーン。
俺の思考を遮るように玄関のチャイムが鳴った。夜の九時。こんな時間に、誰だ?
「はい?」
インターフォンに出ると、
「夜遅く申し訳ありません。お届けものです」
差出人として母親の名前を答えられた。ああ、またなにか送ってくれたのか。
ドアをあけると、帽子を目深に被った宅配会社の制服が立っていた。
「重いですよ。中、入れますよ」
「あ、じゃあ、お願いします」
素直に二、三歩奥に入り、道をあける。配達の人は中に入り、
「はー、疲れたなぁ」
そう言いながら荷物に寄っかかるように、倒れ込んだ。のは、若い女だった。瞬きするような間に、服装が制服から、なにやら黒い服に変わっている。待て、何が起きた?
「意外と重いものだなぁ」
とか言いながら、展開についていけない俺を無視して、女は立ち上がりドアを閉める。
「不用心だからね、閉めておくよ」
「え、あの、誰ですか? っていうか、荷物?」
「荷物は本物だから、安心するがよい」
荷物の上に腰掛けて、女が偉そうに言った。
「優しい母上だな。連絡しているのか?」
「それは、まあ……。じゃなくて」
今、何が起きた? 理解が追いつかない。
「……え、宅配の人は? 服は?」
「私だよ。少し術で服をいじったのだがね」
「ま、術? え、なに、誰、あんた。……え、熱狂的なファンとか?」
冷静に考えたら、ヤバい状況じゃないか?
「ファン?」
だが、女は不満そうに形のいい鼻をふんっと鳴らした。
「君はあれかね、女性は全て自分に夢中だと思っているのかね、上条修司」
不遜だねぇ、と揶揄するように言われた。
決して驕ることがないことで評判の、シューくん相手になんて言い草だ。
しかし、こんな変人女と一緒にいるときに、そんなこと言ってる場合じゃない。逃げたい。しかし、ドアは女が塞いでいる。警察に電話……、している間に刺されでもしたらどうしよう。
「私はね、君」
おろおろと辺りに視線をやる俺を気にすることはなく、女は人差し指をびしっと突きつけてきた。細くて長い、白い指。
「クレームをつけにきたのだよ」
「く、クレーム?」
「そういえば、自己紹介がまだだったね」
女はゆっくりと微笑むと、告げた、
「私はダイアナ。吸血鬼だよ」
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