1、ヴァンパイア・クレーマー

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「知らないのかい? 吸血鬼は霧や蝙蝠、狼等に変身できるのだよ」 「いや、だって、……ええっ?」  もう意味のない言葉しか発せない。 「吸血鬼? え、つーか、霧になれるなら宅配とかしないで入ってくればいいのに」  そうやって急に部屋に現れた方が、きっと素直に信じられた。 「おや、知らないのかい? 吸血鬼は初めての家には招かれないと入れないのだよ」  ダイアナは、何故か胸を張った。 「え、ってかそうなのか。……昨日撮った部分で、初めての家に強引に押し入ってたけど」 「それは駄目だ!」  ダイアナが急に大きな声をだしたので驚く。 「早急に直したまえ!」 「俺に言われても困る!」  そんな権限が俺にあるわけがないだろう! 「もういい、わかった。仕方ないから吸血鬼だっていうことは信じる」  目で見た物は信じるしかない。 「ドラマの脚本に不満があってやってきたのもわかった。だが、なんで俺のところにきた! そういう不満は一俳優じゃなくて監督か脚本家にでも言ってくれ!」  俺がどうこう出来る問題じゃないだろうが。 「だって君が吸血鬼役だろう」 「それはそうだけどな」 「それに、これでも私は、人間社会の動向には目を光らせているのだがね」 「……まあ、ドラマ見てるぐらいだもんな」 「君はほら、演技にこだわりがあるだろ?」 「……は?」 「インタビューとかで答えているだろう。役作りのために資料を読み込むとか。さっき確認した、そこら辺に」  ダイアナはテレビの横に山積みになっている資料の山を指差す。 「あるのは吸血鬼関係のものだろう? 一応君なりに調べたのだろう。君は努力をする人だと知っている。だから、ここに来たのだ」  そうしてその綺麗な顔で綺麗に微笑んだ。 「君ならば私の話を聞いて、それをちゃんとアウトプットしてくれるだろうと思ってな」  吸血鬼にまで、演技を肯定されるとは思わなかった。だが、なんだか、少し嬉しい。 「……光栄だな」  嬉しいと思ったことが悔しくて、少し低い声で呟く。そんな俺の内心も見抜いているのか、ダイアナはふふんっと勝ち誇ったように笑った。 「上条修司。ヴァンパイア・キッスを君の代表作にしたいのだよ、私は」 「……それはなんというかその、助かる」  代表作があるということは、今後の俳優人生に大きな影響を与えることだろう。
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