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「知らないのかい? 吸血鬼は霧や蝙蝠、狼等に変身できるのだよ」
「いや、だって、……ええっ?」
もう意味のない言葉しか発せない。
「吸血鬼? え、つーか、霧になれるなら宅配とかしないで入ってくればいいのに」
そうやって急に部屋に現れた方が、きっと素直に信じられた。
「おや、知らないのかい? 吸血鬼は初めての家には招かれないと入れないのだよ」
ダイアナは、何故か胸を張った。
「え、ってかそうなのか。……昨日撮った部分で、初めての家に強引に押し入ってたけど」
「それは駄目だ!」
ダイアナが急に大きな声をだしたので驚く。
「早急に直したまえ!」
「俺に言われても困る!」
そんな権限が俺にあるわけがないだろう!
「もういい、わかった。仕方ないから吸血鬼だっていうことは信じる」
目で見た物は信じるしかない。
「ドラマの脚本に不満があってやってきたのもわかった。だが、なんで俺のところにきた! そういう不満は一俳優じゃなくて監督か脚本家にでも言ってくれ!」
俺がどうこう出来る問題じゃないだろうが。
「だって君が吸血鬼役だろう」
「それはそうだけどな」
「それに、これでも私は、人間社会の動向には目を光らせているのだがね」
「……まあ、ドラマ見てるぐらいだもんな」
「君はほら、演技にこだわりがあるだろ?」
「……は?」
「インタビューとかで答えているだろう。役作りのために資料を読み込むとか。さっき確認した、そこら辺に」
ダイアナはテレビの横に山積みになっている資料の山を指差す。
「あるのは吸血鬼関係のものだろう? 一応君なりに調べたのだろう。君は努力をする人だと知っている。だから、ここに来たのだ」
そうしてその綺麗な顔で綺麗に微笑んだ。
「君ならば私の話を聞いて、それをちゃんとアウトプットしてくれるだろうと思ってな」
吸血鬼にまで、演技を肯定されるとは思わなかった。だが、なんだか、少し嬉しい。
「……光栄だな」
嬉しいと思ったことが悔しくて、少し低い声で呟く。そんな俺の内心も見抜いているのか、ダイアナはふふんっと勝ち誇ったように笑った。
「上条修司。ヴァンパイア・キッスを君の代表作にしたいのだよ、私は」
「……それはなんというかその、助かる」
代表作があるということは、今後の俳優人生に大きな影響を与えることだろう。
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