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「みっちりしごくのでそのつもりで。しばらく、この家で厄介になろう」
「待て待て待て」
「ああ、気にするな。自分で言うのも難だが、私は美食家でね。君の血を吸うつもりはない」
「天下のトップアイドNenAturaのシューくんを捕まえてお前の血は不味そうだって何事だ」
「気に障ったかね?」
「とってもな! じゃなくて、ここに住むつもりか? 天下のトップアイドルNenAturaのシューくんの家にかっ!」
「自分で天下のトップアイドルとか言っていて、恥ずかしくならないのかね?」
「慣れてるっ!」
何せシューくんの時は、ほとんど別人格を演じているからな。
「まずいだろ。アイドルの家に、女の子が住み着くのは」
「女の子という年ではないよ。若く見られがちだが、これでももう、二千歳でね」
「大事なのは見た目年齢だっ!」
あと、二千歳って何だ。
「万が一、誰かに見られたら、天下のトップアイドNenAturaのシューくんはおしまいだろっ」
そんな事態は避けなければ。なんのために今日まで、シューくんを演じてきたのか。
ダイアナはその細い指の関節を、自身の唇にあて、何かを考えるようなポーズをとる。
「じゃあ、面倒だが通うことにするか。君のアイドル生命を終わらせることは、私にとっても本意ではないのでね」
おお、意外と話わかるじゃないか。
「だから、正しい吸血鬼の在り方を世間に伝えてくれたまえよ」
「俺に出来る範囲でな」
だからそういうのは脚本家か監督に言えよ。
「あと、その、一つ、お願いが……」
ダイアナが少し躊躇いがちに口を開いた。
「なんだ?」
「……レンのサインが、欲しい」
レンこと中本蓮司(なかもとれんじ)はNenAturaのリーダーだ。そのサインが欲しい?
「その……、推しメンなのだよ」
推しメンとかいるのかよこの吸血鬼。人間社会に馴染み過ぎだろ。
っていうか、俺じゃないのかよっ。
「……まあ、ドラマが上手くいったらな」
今ひとつ釈然としないが、そう答えた。あいつ、サイン断らないタイプだし。
「本当か!」
ダイアナの顔がぱぁっと輝いた。綺麗な顔が、少し幼く、可愛くなる。
「ありがとう! 吸血鬼指導がんばる!」
そう言って、ダイアナは胸の前で拳を握った。ああ、なんだろう。意外と可愛い。
まったく非現実的だが、実際に起きている以上仕方ない。俺だって、頑張るさ。
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