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音楽番組の楽屋で、
「はいよ」
ダイアナさんへ、と書かれたレンのサインを受け取った。
「ありがとう」
ダイアナと会って三週間が過ぎた。ダイアナの吸血鬼指導は毎晩のように行われている。昔の吸血鬼がどう生きていて、段々ネオンが増えてくる昨今の吸血鬼がどう生きているのか。トマトジュースは血の代替品にはならず、夜な夜な病院に忍び込んで輸血パックを盗んでいるとか。盗むなよ。
本人が語る吸血鬼事情には息づかいが感じられて、演技に盛り込みたくなる。メイクさんに頼んで少し顔色が悪く見えるようなメイクを施してもらい、監督と交渉して件の家に押し入る部分は変更してもらった。
視聴率はまた少しあがったらしい。
だから、ダイアナの望みどおりにレンにサインを書いてもらうように頼んだのだ。
「珍しいな。シューがサイン頼むなんて」
レンが笑う。確かに俺は、友達に頼まれても他のメンバーのサインをもらうことはない。メンバーは仲間だけど一番のライバルだから。悔しいじゃないか、俺より人気だなんて。
「……世話になっているから」
「好きなんだ?」
レンが意地悪く笑う。何故そうなる。
「お前みたいなのが自分の信念を曲げるなんて、惚れたはれたぐらいだろう」
「……何を言っているんだよ、レン」
「違うのか?」
はっきり違うよとは何故か言えなかった。
「とんだスキャンダルじゃないか」
「ルーマニア人の留学生に惚れたアイドルね」
どうしても惚れたにしたいのか、お前は。
さらになにか言おうとしたレンを、
「スタンバイお願いしますー」
スタッフの言葉が遮った。ナイス!
「ま、がんばれよ」
レンは軽く俺の肩を叩き、控え室の外へ向かう。だから、違うって言っているだろ。
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