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ランドセルを背負った子どもたちと次々にすれ違った。何人かは元気に挨拶をし、何人かは不思議そうな顔をして私たちの方を見た。マメは自分に注目が集まるのが嬉しいのか、ちぎれんばかりに尻尾を振っている。
職員室は外から二階へ続く階段があるので、わざわざ校舎の中に入らなくて済んだ。入り口のすぐ近くにいた先生に声をかけると、校長先生を呼んできてくれた。この校長先生は私たちが五年生のころにこの学校にやって来た人で、それから十年以上ずっとこの学校の校長を努めている。
幸い、校長先生は私たちのことを覚えてくれていたため、私たちは校庭を見て回ることを許された。担任だったわけでもないのに、十年も前の生徒のことをよく覚えていられるものだと感心する。私は大学の友達の名前すら忘れそうになるというのに。
「木戸さんはねぇ、作文のコンクールで何度も表彰されていたし、藤谷さんは陸上大会で大活躍したから、特に記憶に残っているよ」
校長先生はそう言うと嬉しそうににこにこ笑っていた。私の作文コンクールのことを覚えてくれていたことが嬉しかった。当時は誰も関心を持っていないような気がしたのだ。親に見せても友達に見せても、ただつまらなそうな顔で「ふーん」と言われるだけで、私をほめてくれたのは先生と弥生ちゃんだけだった。
それに比べて弥生ちゃんの陸上大会での活躍は、もはや伝説になったと言ってもいいくらいのものだった。彼女は長距離走で県内一の成績を残し、未だにその記録は誰にも破られていない。彼女はいつも誰かの話題の中心にいて、私は密かにそれを羨んでいた。
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