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看板
最初は、ただの疲れかと思っていた。とにかく体が重い。ふらふらする。昼間だというののに、眠たくてたまらない。講義の時間もうつらうつらしてしまうぐらいだ。
まあ、ありがたいことに大学生にもなると、先生の怒声が飛んでくることもない。仮に試験の結果が悪く留年したとしても、それは自己責任という奴。
というわけで、講義中ひと眠りしてきた俺は、学食で飯を食う気にもなれず、テーブルにつっぷしてぐったりしていた。
「なあ」
そこに話しかけてきたのは、知り合いの吉岡だった。彼は『友達の友達』という奴で、機会があれば話すけれど、そう親しいわけではない。それが一体何の用だろう。
「ん~」
あいさつするのも面倒くさく、俺はうめき声で返事をすると顔を上げた。
吉岡は、俺の体を透視でもしようとしているように、不自然に目を細めている。
「あのさ。君、最近どこか心霊スポットみたいな所へ行った? でなければ昔の合戦場跡とか処刑場みたいなとか」
(なんだ、いきなり)
俺は内心面食らった。
けどまあここで「は? 何言ってんの?」とかなんとかいって空気を凍らせたいわけもなく、素直に最近の行動を振り返ってみる。
「いや、特に思いつかないけど……」
心当たりがあるとしたら、友人の神谷と行った廃墟の遊園地くらいだ。
といっても、そこには迷子になった子供が殺されたとか、アトラクションが故障して人が死んだとか、そんな不幸な話は一切ない。そもそも、半日でまわりきれてしまう小さなところだ。スタッフがそうとう間抜けでなければそんな問題は起きないだろう。
神谷と行った理由だって、肝試しというよりどちらかというと暇つぶしの廃墟探訪のつもりだった。
「急にアレなんだけどさ、何か、全身に悪い念がからみついてるよ」
「ええ?」
吉岡は、俗にいう見える人、という奴か。それとも、ただ俺をからかっているだけか? まあなんにせよ、霊を信じていない俺にはちょっとイタい奴にしか見えない。
「あ、いや、なに言ってんだコイツとか思ってるだろ。俺も、普段はこんなこと言わないよ」
不信感が顔に出ていたのか、吉岡は少し弁解がましく言った。
「でも、見た感じちょっとヒドかったから。と言っても、僕もそこまで霊感が強いわけじゃないから、何が原因だとか詳しくはわからないけど。一応、一度お祓(はら)いに行った方がいいよ」
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