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 よく見ると、水溜まりに接するように排水溝が走っている。おそらくその底の一部がゴミか何かで盛り上がっているのだろう。その上を通った水が、排水溝の縁(ふち)からあふれて水溜まりになっているのだ。水が濁っているのは、排水溝の汚れが混じっているからだ。その排水溝は、横に立つアパートの壁に取り付けられた排水管から流れる水を受け止めていた。  原因がわかって気がすんだ朱美は、再び歩き出そうとした。ほんの一瞬、目が水溜まりの像をとらえた。灰色の空。スーツを着た自分の姿。そして自分の背後に立つ見知らぬ男。 「え?」  思わず見なおした水面にもう男の姿はなく、慌てて振り返っても通りすがりの女子学生と目が合っただけだ。  きっと気のせいだろう。そう言い聞かせて、朱美は小走りで駅へとむかった。  その日の昼休み、朱美は弁当を食べながら自分のスマートフォンをいじっていた。ニュースサイトで見慣れたアパートの写真を見つけて目を見開いた。あの排水溝のアパートで自殺があったらしい。  ある男が、ベランダで自分の腹に包丁を突き刺して失血死したのだ。おまけに、その時間は自分があのアパートを通ったのと大体同じ。  朱美は、思わず悲鳴をあげそうになった。あの水溜まりが茶褐色になっていたのは、排水管を通って血が流れ込んでいたからか。  では、あの水溜まりに一瞬映ったあの男は……  朱美は吐き気がするほどの恐怖を感じた。  長い雨は終わり、それからまた季節が巡って、再び梅雨の時期がやってきた。 「最近、朱美さんどうしたんですかね」  葉山はそう上司に声をかけた。     
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