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仕舞いにはとうとう会社に来なくなり、葉山がラインやメールでメッセージを送っても返事がない。
放っておけなくなった葉山は、朱美のマンションまで様子を見に行くことにした。
あいにく強い雨が降っていて、雫をはらって傘を閉じると、マンションの床に小さな水溜まりができた。
朱美の部屋の、安い鉄製のドアをノックする。返事はない。
「朱美?」
ノブを回すと扉はあっさりと開いた。
「朱美、入るぞ」
戸を閉めると、玄関は薄暗くなり、外の雨音が小さくなる。
正直、あの朱美の様子ではゴミ屋敷になっているのではないかと怯えていたが、部屋の中は意外と荒れていない。ゴミ袋が二、三個転がっているぐらいだ。一人暮らしの葉山の部屋の方がひどいかもしれない。
「いないのか?」
小さなリビングスペースには誰もいない。ただ、水をやり忘れたのか、飾られていた観葉植物がかさかさになって枯れていた。
寝室に入ると、 床にはティーポットとカップが割れていた。割れたのはかなり前らしく、こぼれた紅茶は乾ききって跡が残っているだけだった。窓はカーテンが閉められ、かすかに雨音がノイズのように聞こえていた。
朱美はベッドに寄り掛かるようにして床に座り込んでいた。目はうつろで、ぼんやりと天井を見上げている。
「おい、朱美!」
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