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小走りにかけよりながら呼び掛けて、彼女の肩を揺さぶる。
今ようやく葉山の存在に気づいたというように、朱美は濁った瞳をむけてきた。
なんとか意識はあるようだ。とりあえずもっと気をはっきりとさせるために、水を飲ませた方がいいだろう。
葉山はキッチンスペースに走ると、コップを手に取った。蛇口をひねろうとして、息を飲む。コックがガムテープでぐるぐる巻きにされ、固定されていた。まるで蛇口から何か化け物が流れ出てくるのを防ごうというように。
とりあえず自分の持ってきていたミネラルウォーターのフタを開ける。
「ほら、これ飲んでしっかりして」
「いやあ!」
まるでナイフでも突きつけられたように、朱美はペットボトルを払いのけた。勢いよく床に転がったボトルの口から、とくとくと水が床にこぼれる。
朱美は規制をあげ、手近にあったクッションを水の上に投げつけた。口と床の水がクッションに隠れる。
朱美が震える唇を開いた。
「どこにでも、あの男がいるの」
その声は、カゼでもひいているようにひどくかれていた。
「お水にも、スープにも、お風呂にだってあの男が」
「あの男? あの男って誰だ?」
異常な朱美の行動に、葉山の体にじわじわと恐怖が湧いてくる。
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