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そう言い残して、吉岡は去っていった。
(なんだよ、それ……)
幽霊を信じていなくても、そんなことを言われたらいい気はしない。
かといって、変に気にしていたら精神衛生上とてもよくない。
そもそも、霊を見たとか心霊現象とかいうのは、ビクビク怯えているからなんでもないものを見間違えてしまうのだ。
とにかく気にしないことにして、俺はのそのそと家に帰るために立ち上がった。面倒だから、これからの講義はさぼってしまおう。
自動車通学しているけれど、このままずっとボーッとしていたらそのうち事故るんじゃないかと思いながら、俺は駐車場にむかった。
その日の深夜、トイレに行きたくなって俺は目を覚ました。用を足して、洗面所へ手を洗いに行く。
面倒くさいので電気はつけなかった。勝手知ったる家の中、薄暗くても蛇口の場所は分かる。
冷たい水で手を洗う。闇の中の鏡には、おおざっぱな絵のように自分の姿が何となく映っていた。
ふと違和感を覚えてこすり合わせていた手を止めた。
鏡に映る自分の顔が、黒く塗りつぶされている。黒い、楕円形のお面でもかぶっているように、目も、鼻も、口もなくなっていた。
「うわああ!」
俺は悲鳴をあげてしりもちをついた。強く打った鼓動で肋骨が跳ね上がったようだった。
他に何かおかしな現象に襲われるのではないかと身構えたが、足音も、誰かの泣き声も聞こえない。
壁についた両手で体を支え、よろよろと立ち上がる。汗がにじんだ手で、電灯のスイッチを入れた。
白い光が洗面所を照らし出す。
鏡には、目を見開いて半開きの口で荒い息をする、間抜けな自分の姿が映っていた。
流れっぱなしの水が、ジャージャーと音を立てている。
震える手で自分の顔をなでる。ゃんと目も鼻も唇もあるようだ。
「なんだったんだ……」
『何か、悪い念がからみついてるよ』
吉岡に言われた言葉を思い出す。
(そんなバカなことがあるか……)
きっと何かの見間違いか、気のせいだ。暗かったし、半分寝ぼけていたし、昼間のことが心のどこかに残っていたから変な幻覚をみたんだ。
そう自分に言い聞かせて、蛇口をひねり水を止める。キュッという音が、短い悲鳴のように聞こえた。
それから、俺はネットであの廃墟の遊園地を調べてみたが、やはり霊が出そうな事件は起
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