看板

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 あちこち色があせたチケット売り場。さびついた観覧車。ジェットコースターのレール。そして……俺は指を止めた。  そこに写っていたのは、板に描かれた絵。凸凹コンビのピエロが、体を寄せて仲良く並んでいる。そして右側に立っている、背の低いピエロは、俺の顔をしていた。  いや、正確に言うと顔の部分の板が楕円形にくり抜かれていて、そこから俺が顔を出しておどけているのだ。観光地によくある、おもしろ写真を撮るためのあれだ。 (そういえば、園内にあるのをみつけて、ふざけて撮ったんだっけ……)  子供用に穴が低めの位置に開けられていて、顔を出すのに苦労をしたのを思い出した。もちろん撮影したのは神谷で、あとで送ってもらったものだ。  面白いから神谷もやってみろと言ったのだけど、「いいよ、アホらしい」と断られてしまったのだった。  そして、その次は俺の顔なしバージョンの写真。穴の向こうは真っ黒に塗りつぶされているように見える。それこそ黒い紙で作ったお面をかぶっているようだ。いくら薄暗い時に撮ったといっても、むこうの景色や明かりなんかが見えるのが自然なのに。  そして、鏡に映った顔のない自分。 「こいつだ!」
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