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 気が滅入るような長雨が続いていた。朱美は薄暗い空の下、グレーの傘をさして通勤のために駅へと急いでいた。立ち並ぶ小さな家々や、アパートはどれも濡れてくすんで見える。足元のアスファルトはおそまつなもので、あちらこちらできた水溜まりを避けて歩かないといけなかった。  雨なので駅まで車で送ってもらう人が多いのだろう。いつもは通行量が少ない道なのに、今日は結構車が通る。  車に追い払われるようにして、朱美は道の端によった。爪先のすぐそばに水溜まりがあるのに気づき、朱美は踏み込まなかったことにホッとした。轢(ひ)かれないように気をとられていたため今まで気づかなかったのだ。  水溜まりにはスーツを着て傘をさし、つまらなそうな顔をした朱美の顔が映っている。どこからか水が流れ込んでいるらしく、小さくさざ波が立っていた。 (あれ……)  顔を上げたとき、朱美はおかしなことに気がついた。  他の水溜まりは澄んでいるのに、足元のこの水溜まりだけ茶褐色をしているようだ。  少し気になって、水溜まりにどこから水がきているのかそのもとを探す。     
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