【3】

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「月島、本当は伊佐に帰りてえんじゃねえのか?」 「反対を押し切って家を出たのに、今更帰れないよ」  帰ってきてから、父も母も、友里に距離を開けている。帰って来たものの、十年も離れて暮らしてきた娘が疎ましいのだろう。二人とも、友里に向かって何も言わないけれど、心の中では早く東京に戻ってくれないかと思っているかもしれない。  あのとき、両親を説得してから東京に行けばよかった。後悔なんて、今更だけど。 「帰るとこがねえんなら、俺んとこに来ればいいだろ」 「え……は? 遠野のとこって……シェアしろってこと? いやいやいや、そんなの無理でしょ。カノジョに何て言いわけするつもり?」  昔からバカなことばかり言っていたが、本当にバカなのか? 結婚間近の男が、カノジョ以外の女と一緒に住めるわけないだろう。嬉しいを通り越して、呆れてしまう。  話にならないと、友里は来た道を引き返した。途端、遠野が「待てよ」と友里を強引に振り向かせる。 「お前さ、さっきからカノジョって言ってっけど、誰のこと言ってんだ?」 「若い子が応援に来てたじゃない。あの中にいるんでしょ? 鼻の下伸ばしちゃって、ホントは私に紹介したかったくせに」 「いねえよ、そんなやつ。ていうか、鼻の下なんか伸ばしてねえし」 「嘘ばっかり。若い子に囲まれて、嬉しそうだったじゃない」 「嬉しくねえよッ!!」  友里の両肩をぐっと押さえつけて、遠野が声を荒げた。前屈みになって、遠野は真剣な目で友里の顔を覗きこんでくる。見たこともないような、真っすぐな視線に友里は狼狽えた。
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