【2】

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「こっちは終わったから、手伝うわ」  客室の掃除を終えた友里が厨房を覗くと、陽菜が夕食用の食器の準備に追われていた。父は夕食の買い出しからまだ戻っていない。小柄な陽菜が大皿に手を伸ばしかけたのを見て、友里は慌てて手助けした。 「ありがとうございます、お姉さん。こういうとき、背が高い人って、羨ましいです」  大皿を調理台に置いて、友里は苦笑いした。自分ではコンプレックスなのに、きらきらさせた称賛の目で見つめられると、なんだか気恥ずかしい。 「こう見えて、力だけは男並みにあるから、どんどん頼んじゃっていいわよ」  腕を曲げてみせると、鍛えてもいないのにしっかり力こぶができる。それを見て、陽菜が「はい」と笑った。 「今晩のメニューは鮎の塩焼きとブリと甘海老のお刺身に黒豚のしゃぶしゃぶです。根野菜の煮物と茶碗蒸しともずくの酢の物、お吸い物と果物です。それぞれ食器を人数分、準備していただけますか?」  陽菜はそう言って、壁に取りつけられたボードを指さした。そこには今夜のメニューと部屋ごとの人数が書かれた紙が貼ってある。満室なので、今夜の月島旅館は大所帯だ。友里がまだ伊佐にいた頃、学校から帰ったら毎日のように手伝いをしていたので、ブランクがあっても要領は心得ている。 「任せて」  白い歯を見せて笑った友里に、陽菜は安心したように口元を綻ばせた。  その笑みに、不意に胸の奥がちくちくと痛んだ。この厨房にすっかり馴染んでいる陽菜に、高校生の頃の自分の姿が重なった。  ――ここは、私の居場所だったのに。  突然沸き起こった得体の知れない感情に、友里は慌てた。
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