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昨年の秋、参加した合コンで恋人……元カレと出会った。ひと目見た瞬間、友里は恋に落ちた。ひとつ年上の彼は色白のアイドル風イケメンで、友里の好みだったのだ。一七一センチの友里がヒールを履くと、断然、友里のほうが高い――いや、大丈夫。ペタンコ靴を履けば問題ない。
彼は慶応卒でメガバンクに勤務。実家は練馬区。山に囲まれた伊佐市出身の友里とは大違いの、生粋の東京っ子だ。彼と結婚すれば、友里は本物の都会の人間になれる。
友里にはもう、彼しか見えていなかった。控えめな彼に猛プッシュして、元旦開けにやっとお付き合いが始まった。
二八歳と、多少歳は食っているが、まだまだイケてると自分では思っている。日に焼けない肌はこの歳になってもすべすべだし、長い睫毛が縁取る二重の目は綺麗なアーモンド形。ちょうどいい高さの鼻に、ぽってりとした愛らしい唇。艶のある栗色の髪は染めていない天然のもので、今は緩くパーマをあてている。背が高いのがコンプレックスだけど、その代わり胸は大きい。
未だにナンパされるし、モデルのスカウトの声だってある。
そんな自分がコクったのだ。友里の魅力にあてられた彼は、コロッと落ちた。けれど、そこからが長かった。
煮え切らない彼に代わって、ゴールデンウィークに逆プロポーズしたのだ。もちろん、即オッケー。彼の気が変わらないうちに、ご両親に挨拶もすませた。夏までには友里の両親に会ってくれる約束もしてくれた。
なのにだ。それなのにだ。
友里には申し訳ないと思っているんだ? は? 何それ? 婚約指輪もくれたくせに、そんな簡単なひと言ですませるの? 部長の恩義? そんなの関係ないわ!
「ごめんて言えば、何でも許されると思うな!」
狭い洗面所で叫んでしまったが、ちょっとだけすっきりした。
メイクをすませてから、髪をブローすると、綺麗なカールが蘇った。よしよし。
フラれた痕跡を残したまま、会社に行きたくない。憐れんだ目で見られるのはまっぴらだ。
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