そして勇者は先生に……

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『先生……先生っ!? 聞いていますかっ!?』  おっと……またまた思わず一句読んじまった。  やや現実逃避気味な俺をこの世界へと引き戻したのは、「通信石」から聞こえる少女の声と映し出された姿だった。 「ああ……悪い、イルマ。それで、なんだっけ?」  ハッキリ言って、今までの話は殆ど右から左へ受け流していた状態だった。  俺は通信石に映る少女……僧侶のイルマに向かい合うと、だるさの抜けきらない声でそう問い返した。 『もう……。しっかり聞いていただかないと困ります』  幼いながらも美しいその表情を曇らせ、眉根を寄せたイルマが大変もっともな事を口にする。  いや、全くその通り。 「先生」なんて呼ばれているからには、俺はイルマたち新米冒険者(・・・・・)を指導する立場にある。  そんな俺が、生徒からの報告を蔑ろにして言い訳は無いんだ。  でもそれは、俺が望んだ事……ではない。  何と言っても俺は、現役バリバリの勇者なんだからな。  比喩でも誇張でさえない、世界の為に俺は単身魔界へと乗り込み、魔王城攻略をソロで行っているのだ。  今この時も、俺は魔界の魔王城前でイルマの報告を聞いていたのだ。  そんな重要な使命を果たす為日夜頑張ってるって言うのに、この上冒険初心者達にレクチャーしている暇なんかないと言うのが本音だった。  ……まぁ、暇はない事も無いが、身体が持たないと言うのが本音なんだけどな。
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