そして勇者は先生に……

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 俺がある事を切っ掛けに彼女達と出会って、既に3ヶ月が経っていた。  この期間、俺はイルマ達に付きっきりで、冒険における初歩中の初歩を懇切丁寧に教え込んでいたんだ。  ……もっとも、クリークやソルシエがそれを聞けば「どこがっ!」と猛反論を喰らいそうだがな。  それでも本来なら自分達で試行錯誤して、苦労しながら……若しくは傷つきながら知るべき事を教えてやったんだ。  それは彼女達にとって、随分と冒険の助けになった筈だった。  そのせいで……と言う程、俺も迷惑だったわけでは無いんだが、魔王城の攻略が疎かになってしまったのは仕方の無い事だった。  それまでは大体、2ヶ月に1度の割合で魔界に赴いては魔王城の攻略に取り組んでいた。  それは単純に、ソロ攻略である俺の回復に時間が掛かったからなんだけどな。  だから、正味3ヶ月という期間を空けた事は、今回が初めてだった。  当然、体調は万全だし気力も充実している。 「……なるほど、それじゃあ当分は、ドルフ村周辺で怪物(モンスター)を相手にするって事なんだな?」  報告を聞き終えた俺は、イルマにそう確認した。 『はい。……でも、クリーク達は早く先に進みたいみたいで、もう「シュロス城」に行きたいなんて言ってるんですけど……』  肯定を返して来たイルマだったが、最後に気になる事を付け足して不安気にその顔を曇らせた。 「はぁ―――……。まーたあいつは、そんな事を言ってるのか? 懲りない奴だな―――……。俺の出した条件をクリア出来るまで、先に進むのは無しだ。そうクリークに釘を刺しておいてくれよ」 『はい、わかりました』  俺の心底呆れたという溜息と台詞に、画面の向こうでイルマがクスリと笑いながら了承した。  クリークの探求心と向上心は大したものなんだが、それで命の危機に見舞われるようじゃあ本末転倒だ。  いや、本来冒険と言うのは、そう言ったものかも知れない。  僅かな好奇心が、自身の……そして仲間の命を奪う。  取り返しのつかない事態に陥ってこそ、初めて経験となるのかもしれないな。  けれど、もう俺が関わっちまってる。  危険な状況になると言う事が分かっているんだから、それに注意を喚起するのも年長者の役目だからな。
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