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「あいつの目のこと聞いたか?」 「……失明するかもって」 「かも、じゃない。目が見えないってことは、仕事ができないってことだ。日常生活も最初は不便だろうが、それはそのうち慣れるだろう。正臣は仕事人間だからな、あいつから仕事を取ったら何が残るんだよ。性格は難アリだけど、俺はあいつの腕は本当にすごいと思ってるから、有能な医者がひとり消えたと思うといたたまれねぇよ」  悔しさを潰すように志摩は煙草を灰皿に押し付けた。突然「どうする?」と聞かれて秀一は頓狂な声を出した。 「一緒に暮らしてんだろ。目が見えなくなって何もできなくなった正臣と過ごせるのかってことだよ」  いくら家政婦が手伝ってくれると言っても、四六時中いるわけではないのだから、多田がいない時は自分が献身的に世話をしてやらなければならない。確かに不安はあるが、秀一の心は既に決まっていた。 「神崎のことは俺が責任を持って見ます。志摩先生は、全部が全部自分のせいにするなと言って下さったけど、やはりこうなったことに何かしら縁を感じてならないんです。……神崎は、俺の顔を整形したあと『自分でやったことには自分でけじめをつけたい』と言っていました。今では俺もそう思う。すべての発端が俺であるなら、俺は神崎の面倒を見る義務があって、それがけじめであり、償いでもあると思ってます。……それに、」 「それに?」
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