10

10/11
323人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「うちは医療法人なんだ。協会に知らせないといけない。勿論、俺は資料を見ることはできないから、お前に手伝ってもらわないといけない」 「分かった」  事故直後だというのに、冷静なものだなと秀一は神崎の精神のタフさに感心した。案外、受け止められるものなのだろうか。仕事に未練はないのだろうか。そう思った直後、神崎は膝の上の拳を握り締め、そして包帯の下から涙を滲ませたのだ。下唇を噛み締め、肩を振るわせて、じっと耐えている。    ――因果応報。いい言葉だな。――  いつか神崎が言った台詞だ。本当にそんなものがあるのだとしたら、神崎は報いを受けたのだろう。人の体を弄んだ報いを。二度と繰り返さないようにと、視界を奪われたのかもしれない。  秀一は自分が一番どん底だった時のことを思い返した。鏡を見れば忌々しくて外にも出られず、仕事もなく、体は弱るばかり。それなのに死ぬこともできない。あの苦しみを今度は神崎が味わうのかと思うと、ざまあみろと胸がすくような気もするし、哀れで残念でならない。そしてそんな彼の唯一の理解者が自分だけなのだという優越感。秀一はそんな交錯する想いを抱えながら、静かに涙する神崎を見守った。震える拳に手を重ねた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!